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煙突飛行ネットワーク

The Floo Network

 数世紀にわたって使われてきた煙突飛行ネットワークには、どこか不快ではあるものの、多くの利点がある。第1に、箒とは違い、国際機密保持法違反の恐れがない。第2に、姿現しとは違い、深刻な怪我をする危険性がほとんどない。第3に、子どもやお年寄り、体の弱い人も使うことができる。

 ほぼ全ての魔女と魔法使いの家は煙突飛行ネットワークに繋がっている。暖炉は簡単な呪文で解除することができるが、接続するには魔法省の許可が必要である。煙突飛行を規制し、マグルの暖炉がうっかり繋がってしまうことを防ぐためである (緊急時には一時的に繋ぐことができる)。

 家庭の暖炉に加え、イギリスでは魔法省や様々な店や宿の約1000の暖炉が煙突飛行ネットワークに繋がっている。ホグワーツの暖炉は通例繋がっていないが、たまに誰かが、多くの場合職員の知らぬところで勝手にいじることがある。

 煙突飛行ネットワークは大概は信頼できるが、時に失敗も起こる。煙突飛行の炎には目的地の名前を大きくはっきりと発音しながら入っていかなければならないが、灰や熱やパニックによって困難になることがある。最も有名な誤送事件は1855年に起こった。夫ととりわけひどい大喧嘩をした魔女のヴァイオレット・ティリーマンは、リビングの暖炉に飛び込み、嗚咽やしゃっくりを間に挟みながら母親の家に行きたいと叫んだ。

 数週間後、もう綺麗な鍋もなくなり、すぐにでも靴下を洗ってもらわなければと思った夫のアルバートはそろそろ妻が帰るべき頃だと思い、煙突飛行で義理の母親のもとへ向かった。驚くことに彼女は、ヴァイオレットは一度も来ていないと言った。疑い深く少しいじめっ子の気質があるアルバートは、激怒し家に押し入って探し始めたが、義理の母親は嘘をついていなかった。その後、張り紙運動や日刊予言者新聞での一連の記事の掲載も虚しく、ヴァイオレットは見つからなかった。彼女の居場所を知る者はいないようで、彼女が暖炉から出てきたところを見た者もいない。彼女の失踪から数ヶ月間は、人々は自分が空気中に消え去ってしまうのではないかと煙突飛行ネットワークを使うのを恐れた。しかし、時が経ってヴァイオレットの記憶も薄れ、他の誰かが消えることもなかったので、魔法社会はいつものように煙突飛行を使い続けた。アルバート・ティリーマンは気難しい様子で家に帰り、掃除や縫い物の呪文を学び、妻に起こったことを恐れ二度と煙突飛行ネットワークを使うことはなかった。

 ヴァイオレット・ティリーマンの話題が再浮上したのは、アルバートの死後20年が経過してからだった。煙突飛行ネットワークに入った時に不明瞭な発音で話したために、彼女は母親の暖炉ではなく、ベリー・セント・エドマンドに住んでいたハンサムな魔法使い、マイロン・アザーハウスの暖炉から出てきた。ヴァイオレットは涙に染まり灰に覆われたひどい見た目だったにも関わらず、彼女が暖炉から転がり出てきたときに一目惚れし、それからマイロン、ヴァイオレット、そして7人の子どもたちは幸せに暮らした。


J.K. ローリングのことば
「煙突飛行 (floo)」は煙突の排煙管 (flue) に由来しますが、排煙管って何とは聞かないでください。私も知りません。存在することを知っているだけでどんな機能があるのかはわかりません。国際機密保持法を作ってしまったため、特に若い魔女と魔法使いが旅をできる手段が必要だったのです。機密法は不便なため、彼らがとりわけ長距離を魔法の手段で動き回るのはかなり大変になってしまうのです。そのため目立たないものが必要だと思い、煙突飛行ネットワークを思いつきました。マグルに見られることなく家から家へ移動することができるのです。しかし、使用方法を少し難しくし、たどり着く場所を簡単に間違えてしまうようにしたことにはわくわくしました。



著: J. K. Rowling/訳: MORE 4 JP

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